粉雪
「…何で、携帯他にも持ってるの?」


少しの好奇心が、あたしを刺激した。


本当は一瞬見ただけでも、バッグの中には3つの携帯があった。


ポケットに入れてあるのと合わせても、4つになる。


太い札束も見えたが、あたしは何も見てない振りを装った。



『仕事用だよ。
ちーちゃんに教えてるのは、俺のだから。
それは絶対繋がるようになってるし。』


そう言ってポケットから取り出したのは、あたしと番号交換した時と同じ携帯だった。


“自分の”以外の携帯は、誰のだって言うんだろう?


だけど、それを聞くほどの勇気はなかった。



「…仕事、大変?」


『…どうだろうね。
まぁ、神経は使うけど!(笑)
“不安定”って意味では、大変かな?』


「…だったら、貯金しなよ?」


そんな言葉しか言えなかった。



『あははっ!了解しました。』


分かっているのかいないのか、隼人は相変わらずの笑顔だ。


こんなに優しい顔をして笑うくせに、その実態はきっと“普通”なんかじゃない。


そんなことが、少しだけ悲しかった。



それから隼人は、あたしを暖簾の掛かった古風な店に連れて行ってくれた。


そこはどう見ても、あたしの知っている“お寿司屋”なんかではなかった。


回らないお寿司を食べたのは初めてだった。


“高いんじゃない?”なんて言うあたしに、

隼人は“値段なんか気にしなくて良いよ”と言う。


だけど自分から“お寿司が食べたい”と言い出した手前、罪悪感が付き纏って。




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