粉雪
箱を開けると、そこにはダイヤのネックレスが入っていた。


小さな十字架だけど、とても安物には見えなかった。


その輝きと隼人の顔を交互に見比べながら、困ったまま固まってしまう。




『お菓子のついでにね♪』



この男は、絶対に順番が間違っている。



「…ごめん、無理。」


そう言って、隼人につき返した。


この男の考えていることが、全く分からない。



『ちーちゃんに似合うと思ったから買っただけだし。
気にする事ねぇから。
てゆーか、男の好意は素直に受け取るのが礼儀だぞ?(笑)』


「―――ッ!」


まるでそれが当たり前のように言う隼人に心臓が音を立て、

だけどそれすらも戸惑ってしまう。


あたしに向けられた視線から逃げるように目を逸らし、言葉を探す。



「…でも、高いんじゃないの?」


『…だからさぁ、気にするなって!
それに女は良い物つけてねぇと、どんなに良い女も輝かねぇぞ?』


困ったように言い、箱からネックレスを取り出すと、勝手にあたしの首に合わせた。


首筋に当たる金属の冷たさも、スカルプチャーの香りも。


その全ての所為で、余計に鼓動が早くなる。



「…あたし、“良い女”じゃないから。」


首の後ろの金具を止める隼人の顔が近くて、あたしは目を伏せた。



『自分の価値、下げんなよ!
いらねぇなら捨てとけば良いから。』


こんなもの、捨てられるわけがない。


だけどあたしには、こんな輝きなんて不似合いだ。



「…ごめん、あたし、隼人にあげるもんない。」


『あははっ!いらねぇよ?
俺に金使う必要ねぇからな?
俺は、ちーちゃんの喜んだ顔だけで満足だし!
だから、嘘でも嬉しい顔しといて?』


「…ありがと…」


急に心臓が音を立て、逃げるように足を一歩引いた。




♪~♪~♪

瞬間、あたしの緊張を打ち破るように、携帯が鳴った。


着信:母親


「―――ッ!」


ディスプレイを確認し、少しの安堵感が生まれた。



「…ごめん、そろそろ時間みたい…。」


< 41 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop