粉雪
「―――あっ!木村さん!
いらっしゃ~い♪」


グラスを洗いながらあたしは、常連客に笑顔を向けた。



『おっ!千里ちゃんじゃねぇか!
可愛くなったなぁ~!』


恰幅の良い木村さんの指定席は、一番奥。


だけどあたしが何か言おうとする前に言葉を遮るのはいつも、母親だった。



『やだ~!母親の遺伝子よっ♪』


『あははっ!違いねぇ!
ママの子だもんな!』



笑顔を見せていても、母親は負けず嫌いだから、

あたしが褒められると必ず自分のことを喋り出す。


そんな母親に、毎度の事ながら興ざめだった。



『ほら!アンタ、木村さんのボトル持ってきてよ!』


「…ハイ。」


あたしの名前が嫌いな母親は、相変わらずあたしの名前を呼ぼうとはしなかった。


睨み付ける冷たい目は、憎まれてさえいるのだろう。


だけどあたしはもぉ、傷ついたりなんてしない。






♪~♪~♪

店の後片付けをしていると、携帯が鳴った。



着信:隼人


―ピッ…

「はーい。」


耳に当てた携帯を肩で支え、グラスを流しに運びながら通話ボタンを押した。



『…終わった?』


「うん、今は片付け~。」


『…明日も朝からバイトだろ?』


「…そうなの。
さすがにシンドイ。
明日も店の手伝いだし。」


店内を見渡し、ため息をついた。


まだ洗っていないグラスは、山のようにある。


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