粉雪
聞きたいことは山ほどあるのに、何も言葉には出来なかった。


苦しくなるほど、あたしの胸は締め付けられる。


“好きなんだ”ってことは、自分でもわかっていたのに。


こんなのってない。


キスをした理由が知りたいんじゃない。


あの時の“ごめんな”の意味が知りたい。


何も聞いちゃダメな理由が知りたい。




『…ちーちゃん、ごめん。
ちょっと出てくるから。
ここに居てよ。
その後、どっか食べに行こう…?』


「…うん…。」


気を使いながら言う隼人に、あたしは目を合わせようとはしなかった。


好きなのに、嬉しいはずなのに、何故か悲しくて。


バタンと閉まるドアの音が、そのまま心に響く。


隼人が静かに出て行き、あたしは流れ続けるDVDを勝手に終了させた。




“何も聞かないし、何も言わないで”


キスのことも、仕事のことも、ってこと?


考え出すと、悔しくて、腹が立って涙が頬を伝った。



“あたし達は、住む世界が違いすぎる”


いつも脳裏に浮かびながら、無視し続けていた言葉が、今更大きく頭の中を支配した。


ゆっくりと立ち上がり、そのまま部屋を出た。


このまま一緒に居たら、きっと“何で?”って言いそうになる。


あたしには、何もなかったようには装えないから。


隼人の考えてることなんて、何一つわかんない。


何であたしがこんなに悲しいのかだって、全然わかんない。


ただ、締め付けられる胸だけが痛くて。


スカルプチャーの残り香も、セブンスターの残り香も。


全部全部、痛くて仕方なくて。


涙なんて、止められなかった。



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