粉雪
『…そっか。
じゃあ、全部話すから。
とりあえず、会えない?』


あたしの気持ちに、隼人は少しの沈黙の後、それだけしか言ってくれなかった。


苦しくて、聞きたくなんてなかった。


だけど、聞かなきゃいけないんだと思った。




「…わかった…。」



聞いたらきっと、あたしは後戻り出来なくなる。


今まで目を背けていたのに。



だけどきっと、あの雨の日から、あたしの運命は決まっていたんだろうね。


あの雨の日、あたしが隼人の車に乗り込まなければ、

毎日を不安に生きることも、寂しさに涙を堪えることも、なかったのかもしれない。



あたしがあの時…


隼人があの時…


言い出したらキリがない。






―バタン!

『待った…?』


車に乗り込むと、隼人の問いに静かに首を横に振った。


だけど隼人は、言葉を探す。



『…何か食べた…?』


「―――ッ!」


振り払うように睨み付けあたしは、唇を噛み締める。



「何も食べてないし、何もいらない!
あたしの心配なんか、しないでよ!」


いつもあたしに優しい隼人が、こんな時だからか凄く嫌になる。


悲しそうな顔が、あたしの胸を締め付けて。




『…ごめん…。
とりあえず俺んちで話しよう…?
聞かれたらヤバイから…。』


「…うん…。」



これから聞くのは、人に聞かれては困る話。


そんな事実に、覚悟を決めていたはずなのに、今更緊張してしまう。



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