粉雪
『…どっから話せば良い…?』


ベッドに背中をつけて座った隼人の向かいに腰を下ろした。


まだ寒くて、だけど気にならないくらいに空気が重い。



「…“全部”なんでしょ…?」


煙草を吸う隼人の目を見据えた。


漂う煙は天井に向かい、まるであたしの心の中みたいに揺れている。


何度目かの煙を吐き出す姿をあたしは、ただ見つめ続けた。


そして隼人は、ゆっくりと口を開いて。



『…俺の仕事は、平たく言えば“売人”みたいなもんだよ…。』


「―――ッ!」


隼人の口から聞こえてくる話に、背筋に嫌な汗が流れた。


まるで血の気が引くように、握り締める手が冷たい。



『…シャブも売ってるし、窃盗車も売ってる。
金貸しとか、あと色々…。
書類偽造して、色んな詐欺もしてるから。
何個も偽名持ってるし。』


「…本名は?」


震える声で聞いた。



『小林隼人。
ちーちゃんに教えただろ?』



隼人は、あたしに嘘をつくような男じゃない。


今更、そんなことに気付いた。


そして隼人は、悲しそうに笑いながら、言葉を続ける。



『…俺は堅気だけど、後ろには獅龍会がついてる。
だから、俺は調和を保ちながら、商売させてもらってるんだ。』



この辺では、一番有名なヤクザだ。



『一緒に県境の展望台行ったのは、シャブの取引するためだった。』


「―――ッ!」


あの日見た光景が蘇ってきて。



「…うん、何となくわかってた…。」



一般人のあたしでも、相手の車がヤバイことくらいは、すぐにわかったから。


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