粉雪
『…これで、大体全部だと思う。
でも、心配しないで?
このマンションには、何もないから。』



今更聞かされても、あまり驚きはしなかった。


今までの隼人を見てきたから、“怖い”とは思わない。



だけど、これで全てが理解出来る。


いくつも携帯を持っていることも。


常に大金を持ち歩いていることも。


でもね、まるで心にポッカリ穴が開いてしまったようで。


聞かされたからって、どうすれば良いのかなんてわかんなかったんだ。




「…あの日、あたしを車に乗せた理由は何…?」


短くなった煙草を灰皿に押し当てる隼人を見つめた。



『雨の日のこと?』


そう言うと隼人は、悲しそうにまた笑って。


最後に吐き出された煙は筋状に伸び、そして消える。



『女の子がずぶ濡れで歩いてて、何やってんのか気になって聞いてみたんだ。
睨んでても、どっか悲しそうな顔してたから、車に乗せてみた。』


一つ一つを思い出すように、隼人は天井を仰いだ。



「…それって、気まぐれ…?」


『そーかも。
きっと、俺と同じで寂しいんだと思ったんだ。
放っておけなかったから。』


その台詞は、まるで捨て猫でも拾ったような言い方だった。



「…隼人も、寂しかったの…?」



隼人の寂しさがあたしに流れ込んでくるみたいに感じて。


隼人の言葉一つに、何故か胸が締め付けられた。



『…俺の仕事は、危ないから。
女作っても言えない事の方が多いし。
女にまで何かあったら困るから、絶対に特定の女は作らないようにしてたんだよ。』


「―――ッ!」


その悲しそうな顔が辛くてあたしは、唇を噛み締めるようにして俯いた。



「じゃあ、あたしに話していいの…?」


『…隠し続けるのって、結構辛いの知ってる?
ホントは、全部聞いて欲しかったんだよ。』


そう言うと、静かに新しい煙草に火をつけた。


カチッとライターの音が、静かな部屋に響く。



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