粉雪
「…意味わかんない。
てゆーかあたし、風邪なんて引いてないし。」


睨むあたしに、だけど男は笑顔を向ける。



『…でも、これから引くかもじゃん?(笑)』


そう言って男が先に一口食べ、あたしも仕方なく手を伸ばした。



『美味しいっしょ?』


「…まーね。」



卵とベーコンしか入ってないチャーハンだけど、

出来たての温かさに、何故か泣きそうになった。


その顔がバレないよう、少しだけ赤くなった顔をうつむかせた。


こんな温かいものは、久しぶりに食べた。


そんな些細なことに安心するのはきっと、この男の屈託のない笑顔の所為なのだろう。







―ピロン、ピロン!

『おっ!風呂出来たよ!
入って来いよ!』


チャーハンを食べ終わるのと時を同じくして、お風呂場の方から呼び出し音が鳴った。


そして男は、それを指差しながら笑顔を向ける。



「…ごちそうさま。」


それだけ言って、食器を持って立ち上がった。



『俺が運んどくし。
お前、風呂入れよ。』


あたしの持っていた食器を取り上げた男は、煙草を咥えた。



「…どーも。」


それだけ言い、あたしは再びお風呂場に足を進める。



何もないこの部屋は、まるでカラッポのあたしみたいだ。


そんなことに、少しだけ笑えた。



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