粉雪
お風呂場の鏡で自分の姿を改めて見ると、

化粧も崩れたこんな汚い女をわざわざ車に乗せるなんて、

ホントに変な男だとしか思えない。


誰でも良かったとしても、あたしが男なら、もーちょっとマシな女を選ぶのに。


バッグの中に、化粧落としを念のために入れておいたのが、こんな時に役に立った。



ため息をつき、ゆっくり湯船に浸かり、足を伸ばした。


気持ち良すぎて、このまま眠ってしまいそうになる。


包まれる温もりは安堵を与え、だけど慣れていなくて不安になる。










―カチャ…

先ほどと同じ格好で、頭にバスタオルを被ってドアを開けた。



『―――ハァ?
ハコが50とか、絶対無理!書類は?
ないの?じゃあ、無理だわ!』


声が聞こえ、男の方を見ると、誰かと電話をしているようだ。


邪魔にならないように、静かにキッチンに置いていたセブンスターを勝手に貰った。


火をつけ吸い込み、漂う煙の先を見つめる。



『あぁ、今日なしね!
え?落し物拾ったんだよ!
ハァ?あははっ!そうそう!
じゃぁ、また連絡よろしく!』


笑いながら電話を切った男が、あたしの傍に来た。



「…お風呂、ありがと。
あと、煙草貰ったから。」


セブンスターのケースを顔の前で少し揺らした。



『あぁ、良いよ。
てゆーか、洗濯終わるまで時間あるよなぁ。
どーする?』


あたしがお風呂に入っている間に、男はあたしの物を洗濯機で回してくれたようだ。


まぁこれで、あたしは完璧に帰れなくなった。


これから何をするかなんて、あたしに聞かれたって困る。


どーせすることなんて、一つしかないんだから。



「…さぁ。」


それだけ言い、男から目線を外した。


逃げ帰るほどの気力だって、あたしは持ち合わせてはいない。



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