粉雪
最後まで何も言わずに聞いていた隼人は、少しの沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。



『…ちーちゃん、荷物まとめて。』


「―――ッ!」


『おいで、俺んとこ。』



隼人はあたしに、同情なんてしなかった。


真剣な目であたしを見据え、全てを背負い込んでくれたんだ。


ちゃんと抱き締めてくれて、居場所を与えてくれた。


あたしの荷物は、ボストンバッグ一つで事足りてしまった。



18になった日、あたしは母親に捨てられた。


母親は、あたしの誕生日も覚えてなかった。


だけどこれからは、隼人が覚えててくれるから。


隼人が祝ってくれるから、寂しくなんてないよ。



昔一度だけ、“産むんじゃなかった”って言われた。


酔っ払って言った言葉だから聞こえない振りをしたが、

今となってはリアルに思い出す。




だけど隼人は、あたしの孤独を埋めるように抱いてくれた。


カラッポになってしまったあたしには、隼人の温もり以外に何もなかった。


それはまるで、あたしの物が増えていくこの部屋みたい―――…




『…ちーちゃんは独りじゃないよ…。
俺がいるから…。』



隼人はあたしに嘘なんかつかなかったのに…。


でもね、この時のあたしは、隼人の言葉で救われたんだ。


誰も信じなかったはずなのに。


隼人はあたしを変えた。


考え方も、人生も―――…




< 74 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop