粉雪
『―――ちーちゃん、今日くらい仕事休んだら良いのに…。』


珍しくスーツを着た隼人は、出掛けに声を掛けた。



「…良いよ、仕事だし。
それに、働いてた方が良いから…。」


力なく笑うあたしに、隼人も少し悲しそうに笑顔を向ける。



『…なら、良いけど…。
じゃあ、頑張ってな?』


「いってらっしゃい。」



コートを羽織り、セカンドバッグを持ってサングラスを掛けた隼人は、

さながらホストみたいだった。


そんなことを思いながら見送った後、仕事の準備を始めた。



忙しく働いていれば、少しだけ気が紛れた。


嘘の笑顔を作ることは、体に染み付いていたから、

あたしにとっては何にも苦じゃない。


クタクタになって帰ったら、隼人が笑顔で迎えてくれて。


あたしには、それだけで十分だった。


元々母親なんて、居ないものだと思って生きてきたんだから。



1月の終わり、スタンドを辞める頃には、

隼人のおかげで全部吹っ切ることが出来た。


それからすぐに教習所に通い始めたから、

あたしの忙しさはあまり変わることはなかったけど。


その期間だけファミレスのバイトも減らしてもらったから、

高校を卒業する前に免許が取れた。



ねぇ、隼人…


あたし達はきっと、こうなる運命だったんだろうね。


そんな風にしか、思えないんだ。


隼人はあたしに、“居場所”と“幸せ”を与えてくれた。


そして、“愛すること”を教えてくれたんだ。


そんな隼人に、あたしは何が出来ただろう?


あたしはあなたの孤独を埋めることが、出来ていましたか?



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