粉雪
♪~♪~♪

店を出てすぐ、隼人の仕事用の携帯が鳴った。



―ピッ…

『―――はい。
あぁ、この前聞いた。
え?明日?急すぎじゃない?
わかったよ、なら、10貰うけど良い?
オッケ、朝一でそっち行くわ!』


目つきが変わる隼人には、未だに目を背けてしまう。


仕事の電話を切ると、隼人は小さくため息をついた。



「…明日、何かあるの?」


『ちーちゃん、マジごめん!
S県まで行くことになった。
明日中に帰れるかわかんない…。』


「…そっか、仕事だし仕方ないよ…。」



折角の卒業の日だけど、隼人の仕事に口は出せない。



『…ハコ取りに行かなきゃいけないんだよ。
だから、ずっと運転だし…。
まぁ、中間マージン10だから、頑張るしかないわ。』


そして煙草を咥えながら、困ったように笑った。



“ハコ”は盗難車の通称。


1台に2人乗り合わせ、帰りは2台に分かれて車を運ぶらしい。




「…その車、大丈夫なの?」


『大丈夫だよ!
プレートも変えてるし、書類もあるから!』



“書類”は車検証などの通称。


プレートや車体番号を全て変え、“正規品”のように見せかけている車のことだ。


だから、“書類”のない車に価値はない。



「…事故はしないでね?」


『おう!任せとけって!(笑)』



“頑張って”とは言えなかった。


あたしは黙って、隼人の帰りを待つことしか出来ないんだ…。



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