粉雪
『じゃあ、トランプでもする?(笑)』



トランプ?



「…何ソレ?意味わかんない。
あるの…?」


『…いや、ないけど。
やるなら買ってくるよ?(笑)』



何だ、それ。


思わずポカンとしてしまったあたしの顔は多分、酷く滑稽だっただろう。


だけど次の瞬間には何故か笑えてきて、その笑いを堪えながら口を開いた。



「…ねぇ、さっきから気になってたんだけど、何でこの部屋って何もないの?」


辺りを見回し、何となく聞いてみた。



『必要なもの揃ってるだろ?
他に何かいる?』



どこをどー見ても、人が普通に生活するような家ではない。


キョトンと聞いてくる男に、ため息をつくあたし。



「…机と椅子くらいは必要なんじゃない?」


『あははっ!じゃあ、今度買っとくわ!(笑)』




“今度”なんて、あたしとこの男にはない。


この男が机と椅子を買ったところで、あたしには何の関係もないんだから。




「…てゆーか、今日予定あったんじゃないの?」


『あぁ、さっきの電話?
いいよ、あんなの。
ただの飲み会みたいなもんだし。』


「…良いんなら良いけど。」


煙を吐き出し、煙草を灰皿に押し当てた。



“あたしには関係ない”


これがあたしのスタンス。




『…さっきから思ってたけど、お前、眉毛ねぇな!(笑)
高校生みたい!』


「悪かったな!」



言われて気付いた。


男の前で化粧を落としたことなんて、一度としてなかったのに。


赤らめた頬を手の甲で押さえてみたが、指を差した男はケラケラと笑う。



< 8 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop