粉雪
マンションに着き、隼人に肩を貸して部屋に向かった。


誰かに見られないかと思うと、気が気ではない。



隼人をソファーに座らせ、救急箱から傷薬や脱脂綿、

ガーゼやあらゆる物を取り出した。


そして服を脱がせ、傷薬を含ませた脱脂綿を患部に当てた。



「…しみるけど、我慢してね?」


『―――ァ!!』


あたしの体に抱きつくようして、隼人は痛みに耐えた。


握り締められた肩が痛くて、だけど気にならないほどに怖くて。



『…ってぇよ!!』


苦痛に歪む隼人の顔を、直視することはやっぱり出来なくて。



「…ごめんね、でも、我慢して…?」


言いながら、震える手を動かし続けた。


脱脂綿はみるみるうちに赤に染まり、あたしの手までも侵食する。



『…マジで痛ぇ…!
俺、すげぇカッコ悪ぃな…。』


「―――ッ!」


だけどあたしは、振り払うようにして声を上げる。



「…そんなことないよ。
頼むから、喋らないで…?」


重なる唇から押し入ってきた隼人の舌は、血の味がして。


だけど荒い呼吸のまま、貪るように絡め合う。


そしてゆっくりと唇を離し、隼人は聞いてきた。



『…シャブ打ったら、痛み消えると思う…?』


「―――ッ!」


瞬間、目を見開いた。



「…何、言ってんの…?」


隼人の言葉に、全身から血の気が引くのが分かる。


打ち鳴らす心臓の音は早くて、隼人の言葉の意味なんて、理解したくなかった。



『ははっ、嘘だし。
怒るなって…。』


「わかってるよ!
でも、冗談でもそんなこと言わないで!!」


だけど笑い掛ける隼人に、唇を噛み締めた。


隼人は絶対、覚醒剤なんてしないのに。


嘘だって分かってても、そんな台詞、聞きたくないよ!



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