粉雪
『アァ?!ヘラヘラ笑ってりゃ通用すると思うなよ?!
てめぇがいくら持ってるかなんて、こっちには分かってんだよ!
詐欺師の本田賢治が、1000万で破産はねぇだろ?』


『ハッ!河本さんには敵わねぇな…。
わかりました、1000で手打ちにしましょうや。』


すごむ河本に、隼人は諦めの色を滲ませた。



『…てめぇは相変わらず、頭の回転速ぇな。
俺ぁ、嬉しいよ。』


しみじみと言いながら、河本は煙草を灰皿に押し当てた。



『…それはどーも。
でも、金飛ばされて、その上刺されて1000失くして…。
散々っすよ。』


『そりゃあ、イモ引いたてめぇがマヌケなんだよ!
まぁ、てめぇにはこれからもしっかり働いてもらわなきゃいけねぇしな!』


河本は最後に煙を吐き出しながら、薄ら笑いを浮かべた。



『…よろしくお願いします…。』


言葉とは裏腹に、隼人の声は低い。



『…ところでよぉ。
このお穣ちゃんは、本田の女か?』


「―――ッ!」


突然あたしの方を向いて話を振ってきた河本に、

再び固まったまま何も言えなくなった。



『…違いますよ…。
俺に女はいません。
知ってるでしょ?』


『ハッ!“女はいません”ねぇ。』


ベッドの脇に置かれたスヌーピーに目をやり、馬鹿にするように言われた。



『…まぁ、そーゆーことにしといてやるよ。
お穣ちゃん、せいぜい本田の看病して、早く完治させてくれよ?
仕事は山のようにあるんだ。』


「―――ッ!」


最後まで薄ら笑いを浮かべた河本は、そのまま家を出て行った。


バタンと閉まった瞬間、あたしは気の抜けたようにその場に崩れ落ちる。


あたしの目の前で、一体何が起こっているの?


隼人の生きる世界は、こんなに恐ろしいものなの?



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