氷ノ様ナ鏡

◎短編





『私を殺して』


繰魅は目の前で微嗤む従者達へと語りかける

その口調に抑揚は無く、ヒカリの無い瞳には唯空虚が映されていた


「何故ですか?」


赤髪の従者は問う

嘲るように、稚児をあやすようにそれでも声音は優しくなかった

ソプラノ混じりのアルトは厭に耳触りが良い


「全てに疲れた」


過去に培った栄光、富

彼女の口調からは疲れが聞こえた


「…あの等は死なずに済んだ。それはよかったが、俺は此処から出られない」


「そうだな……出れば、貴女は英雄として崇められますからね」


「そう、だからずっと同じ場所にいたって下らないだけ」


ふふっと銀髪の従者は笑った


「貴女の願いはそれだけなのですか?」


「ああ」


「その命令だと極楽浄土へはいけないぜ」


緑髪の従者の言葉に繰魅はピクリと反応を見せた


「望んでない、天国なんて」


「ほぉ」


「私が望むのは永久の死…新しい命は要らない」


今度は黒髪の従者が反応を見せる番だった


「お前は、実に珍しい」


「……?」


「他人の幸せを築き上げ、衣食住の日々は充足しているのに死を強請る。満ち足りている筈なのにその心は渇き切っている…何故」


最後のほうはもう殆どが黒髪の従者の独り言だった

けれど繰魅は嫌な顔一つせずその質問に答えた





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