氷ノ様ナ鏡
「いずれ全て解るよ…幸せは脆くて、直ぐに崩れていく。それに抗う術を私は持っていなかった」
「……いいや、もしかすると最初から私に幸福なんて無かったのかもしれない呪われた刻印があるのだから……」
完璧に創られた、セカイ
巨万の富は必ずしも幸福とイコールではないと言うことか
従者は1つ喉を鳴らした
夜明けが近い
「繰魅…時間です」
…そうですね……、そう呟いて彼女は目蓋を閉じた
「最期に俺達から貴女に伝えたい言葉がある」
紫髪の従者はポケットから拳銃を取り出し、それを繰魅の額に当てながらいう
「私にか?」
「貴方以外の誰がいると言うのですか?」
咎めるような言い方に銀髪の従者の口から苦笑が漏れた
死のうとしている人間には見えない
殺してしまうには惜しいと、彼等は心から思っていた
「貴女が死んでも我々は再びこの地で目覚める」
「そして貴女の魂も我々と共に」
「…………」
「やめますか?」
「やめないよ……それに、いやなんでもない」
「それでは、遺言を」
銀髪の従者が多少おどけた調子だったのはそれがこの場に最適だと判断したからの行為である
彼は非常に頭が良い
繰魅は瞳を伏せて、小さく息を吸い込んでから従者達に詩を送り、最後に囁いた
銃声が響いたのはそれから数秒後の事だった