ウイニングボール
「じゃ、行ってくる」

 ツーアウト満塁。祐樹はバッターボックスに向かっていった。
 祐樹が足場を作っていると相手キャッチャーが話しかけてきた。

「今更何してもお前等の負けだ。さっさと諦めな」
「負けねぇよ。これからだ」

 それだけ言うと祐樹はバットを構えた。ピッチャーが振りかぶる。

(ストレート……)

 祐樹がバットを振るとこの試合で始めて気持ちいいほどの快音が響いた。ボールはフェンスを越え土手の向こうの川に吸い込まれていった。祐樹はバットを投げるとゆっくりと走り始めた。

 ……一瞬の静寂。
 
「すごいっ! 満塁ホームラン!」

 唯華がそう声をあげると周りからも歓声がおこった。
 祐樹がベンチに帰ってくる。チームメイト全員にもみくちゃにされる。

「四点差。勝てる気になってきただろ?」

 手荒い祝福から開放された祐樹はベンチに座ると唯華に話しかけた。

「はい! すごいです!」

 唯華は嬉しそうに胸の前で両拳を握り締め返事をした。
 その後も順調に得点を重ね、守備では祐樹がボールに触れさせる事も無く、完全に抑えていた。

 そして九回、9-8逆転に成功し最後の守備についた。 



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