ウイニングボール
 夜、日課のランニングを終えると玄関に唯華が居た。

「国崎君。これ」

 唯華はそう言って祐樹にタオルとスポーツドリンクを手渡す。そして傍に置いてあったボールを磨きだした。

「ボロボロだな」

 祐樹は磨かれているボールを見ながら言った。

「でも、コレしかないんですよ。部費も無いですし」
「そうなのか……」
「はい! 今使ってる道具は皆でお金出しあって買ったんです」

 すごいな、と、祐樹は思った。

「なんでそこまでするんだ? 女子高生の小遣いの使い方じゃないだろ」
「好きなんです。高校野球」

 祐樹はそう言った唯華の横顔を見つめた。汗をかきながらボールを磨き続けている。ホントに好きなんだろうと祐樹は思った。

「国崎君も好きですよね? 野球」
「やめたよ」
「やめたとしても好きですよね。私、もう一度投げてる国崎君が見たいです」

 祐樹は気まずそうな顔で頭を掻いた。その時、家の中から叔母さんが風呂に入りなさいと声をかけて来たので、祐樹は家の中に入ろうとした。

「待ってますから……。放課後はいつも集まってますから」

 家に入る祐樹にボールを磨きながら唯華は言った。
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