ウイニングボール
 祐樹は思った。きっと自分が何を言った所でこの少年は野球部をつくるのをやめたりはしない……と。

「他を当たってくれ。俺はもう……野球をやめたんだ」
「キャッ!」

 そう言い残しその場を去ろうとした祐樹に何かがぶつかった。後ろを振り向くとジャージ姿の女の子が尻餅をついていた。急いでいたのだろう息があがっている。

「ゴメン。大丈夫?」

 祐樹は倒れた女の子に手を差し伸べて謝罪した。女の子は「大丈夫です」と自分で起き上がった。

「それよりこんな所にいるってことは入部希望者ですか!?」
「マネージャー。そいつは違うぜ。野球はやめたんだとさ」

 女の子の質問に不良っぽい少年が答えた。部でもないのにマネージャーと思ったが関わりたくないのでこの場を去ろうとした祐樹だが……

「マネージャー?」

 つい声に出してしまっていた。
 
「はい! 私、高校野球が好きなんですよ。だから少しでも2人のお手伝いが出来ればなって」

 女の子は笑顔でそう言った。本当に野球が好きなんだろう……と、そう思った。

「そうか……まぁ頑張ってくれ」

 祐樹はそう言うと今度こそその場を後にし、これから住む家に向かう事にした。


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