ウイニングボール
「……ここだよな?」

 祐樹は地図と表札を確かめる。そこにあったのは田舎の民家って感じの家だった。しかも、結構大きい。呼び鈴が見当たらないため玄関まで行って呼んでみる。すると中から優しそうな叔母さんが出てきて俺の部屋になる場所へ連れて行ってくれた。

「夕食が出来たら呼ぶからそれまでゆっくりしててね」

 そう言うと叔母さんは夕食の準備に戻っていった。祐樹はそれまでの時間で届いていた荷物を整理することにした。

 一通り荷物を整理し終えると、ちょうど夕食の時間になったようだ。叔母さんの呼ぶ声が聞こえている。祐樹は一息つくと居間に向かって歩き出した。

「やあ! 祐樹。大きくなったなぁ。祐樹は覚えてないだろうが叔父さんは祐樹を抱いた事だってあるんだぞ。まぁウチにはもう1人居候がいるから気楽にな!」

 祐樹が居間に入ると叔父さんがビールを飲みながら明るく話しかけてくれた。その明るさで祐樹の緊張も和らいだ。「これからお世話になります」と言って祐樹も食卓に座る。

「ただいま~」

 その時玄関から声が聞こえた。ただいまって事はさっき言っていたもう1人の居候ってやつか。祐樹はこれから一緒に住む家族として挨拶しようとドアの方を向いた。

「疲れたよ~」
「えっ!?」
「あ、さっきはどうも。なんでウチにいるんですか?」

 そこに居たのは、先ほど出会った野球部のマネージャーの女の子だった。叔父さんが祐樹の居る説明をした。年頃の男が一緒の家に住むというのに女の子は嫌な顔一つせず祐樹に自己紹介をした。

「私、咲宮 唯華って言います。よろしくです」
「国崎 祐樹。……よろしく」

 祐樹はパニックになりながらも自己紹介だけはちゃん返したが、夕食の味は全く分からなかったという。
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