ウイニングボール
その時、唯華達は川原にあるグラウンドに居た。野球部の2人もいる。他のチームメイトもいるが年齢は結構上、というか中年の方々だ。近くの商店街チームらしい。不良っぽい少年、遊佐(ゆさ)の父親がキャプテンらしい。

「今日はなんと東高校の野球部が相手だぞ!!」

 無精髭にクマみたいな顔と体格の遊佐父が豪快に笑いながら言った。

「2軍だけどね」

 平松がそう付け足した。2軍とはいえ相手は野球部だ。草野球チームとはたして試合になるのだろうか。唯華は少し不安になった。その時相手チームがやって来た。


「「「お願いします!!」」」

 試合が始まった。草野球チームが先攻だ。一番バッターは空振り三振。二番の平松がバッターボックスに入ると相手キャッチャーが話しかけてきた。

「草野球のチームで俺らに勝てるとおもってんのか?」
「やってみなきゃ分からないよ」
「ま、せいぜい笑わせてくれ」

 さすがにこの言葉は温厚な平松もカチンときた。楽しませてくれじゃなく笑わせてくれだ。相手を馬鹿にして笑いたいと、そういうことだ。怒りを込めてバットを振った。

「くっ!」

 だが、バットは空を切るのだった。その会は3者凡退。1回の裏になった。

「しまっていこう!!」

 キャッチャーの防具を身につけた平松が全員に聞こえるよう声をあげた。ピッチャーは遊佐父。

「行くぞぉ!」

 遊佐父は大きく振りかぶって投げた。ボールはそれ程早くも無く、軌道も山なりだ。

「くくっ。なんだよこの球」

 1球目を見送ったバッターはそれを見て笑っていた。それはやはり打てるという事でこの回は一騎に4点も取られてしまった。

 その後も攻撃は相手が遊んでいるようで、塁には出れるが点は入らない。守備ではどんどん点を取られる。しかも相手は真剣に走塁しない。相手はいつも一回戦負けの弱小高の、しかも2軍あいてなのに……。

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