青碧の魔術師(黄昏の神々)
腕を下ろしたその時に、ほんの少しの力のカケラを形にして、ナイアルラトホテップの左肩に撃ち込んだ。

指先で弾いて。

それが食い込んだ瞬間に、触手が派手に爆発したのが、先程の怪音だった。


「くっっ……さすがハスター様。一筋縄では行かないですね」


苦し紛れに言い捨てる、ナイアルラトホテップの言動と、余裕釈々なシュリの態度。


「なめてかかっていたか? 残念だったな」


囁く様な声音は、普段のシュリとは違い、少し高く、ちらりと聴いただけでは、男女の区別も付けがたかった。

姿も声も明らかに違う、シュリとハスター。

だが、話す口調、醸し出す雰囲気は変わらない。

イシスは何と無くだが、ホッとした自分に気がついた。


「シュリさまはシュリさま。どんなに姿形が違えども、あの方には変わり無いのですね」


やけにしっかりと、確信を持って呟くイシスの言葉に漣がうなづいて、彼女を見た。


「上等、上等。それがわかっていれば、イシスちゃんは大丈夫だね。ハスターの事も受け入れられる」


『よかった』けど、


「問題はシュリの方に有るんだよね……」


多分……と、漣は溜め息混じりで一人呟いて、


「……?」


と、何か言いたげなイシスを余所に、目線をシュリに向けた。


そこには、対峙する二人が。

危うい、一発触発な様相を呈していた。





「ハスター……様?」


かけられた声に、シュリがピクリと反応する。

フードを深く被ったままなので、端から見ると彼の表情は、相変わらず見て取る事が出来なかったが、声を掛けた者を注視した事は、気配で知れていた。

無言の促しが、声を掛けたルルイエに重くのしかかる。

その間も、双方の均衡は崩れる事無く、微妙な位置で保たれていた。


「ルルイエ、お前まだ召喚していないのか?」


シュリが、唐突にルルイエに話し掛けた。

もちろん正面は見据えたままで。

そんなシュリの言葉に反論するように、ルルイエが言った。


「無理です! あれは長年、ハスター様を捕縛、封印していた物です! 」
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