青碧の魔術師(黄昏の神々)
「貴方も、口の減らない方ですねぇ。ならそのまま強制送還です。貴方さえいなければ、この次元は我々旧神の支配する世界となる」
「なるほどね。やはり目的は別にあったか」
シュリがニヤリと笑う。
そんな彼をナイアルラトホテップは、不思議そうに見つめた。
「お前、どうやら平和ボケしている様だな」
シュリはナイアルラトホテップに向けて、言い捨てると、「さて、お遊びはここまでだ」と言ってフードごしに彼を嘲った。
少し俯いて、軽く息を吸う。
「ラン! ナイアルラトホテップ、捕縛!」
張り上げる声と共に、シュリを縛していた蔦が一斉に解け、地面を蹴ったシュリが、椅子を利用して後方へ宙返りをして飛びのいた。
彼が衣服を乱す事無く、地面に着地して、ナイアルラトホテップを見ると、青年はシュリが跳び退くと同時に、全身を蔦に絡み取られていた。
呆然とした表情を見せたままで。
「だから言っただろう。平和ボケしすぎだと」
佇んだまま、話すシュリの声に、現実へと立ち戻った青年は、慌てて蔦を断ち切ろうと足掻いた。
だが蔦は、緩む事も無く、次々とナイアルラトホテップを絡み取って行く。
その様子を、高見の見物と洒落込んだシュリが、ククッと可笑しそうに笑った。
「嬉しそうだね。ラン。そのまま彼を縛したまま、帰還してくれて良いよ。そうだな……そいつの主(あるじ)の下へ捨ててくると良い。ちゃんと捨てて来るんだぞ。でなけりゃお前、そいつの主に壊されるぞ。くれぐれも忘れるなよ」
椅子−ラン−に話し掛けるシュリの言葉を聞き取って、ナイアルラトホテップが呟く。
「何故だ……? 一体、どう言う事なんだ?」
ランに捕縛されたナイアルラトホテップは、合点がいかない。
椅子はハスターであるシュリを捕らえる為のアイテムの筈なのに。
現実には、ナイアルラトホテップを捕まえている。
彼にとっては信じ難くかつ、ただならぬ出来事であった。
そんな彼にシュリは近寄って言い放つ。
「だから平和ボケだと言ったんだ。俺のこの姿に意味は無いと思ったか」