青碧の魔術師(黄昏の神々)
シュリの言葉に、あらためて彼を見るナイアルラトホテップ。

全身をすっぽりと隠した外套に、一種異様な感は否めない。

シュリ、いや、ハスターはその姿を隠している。

何故か。


「は……ははは…………」


ナイアルラトホテップから、小さく乾いた笑いが起こる。


「そうでした。何故私は忘れていたのでしょうね……あの時、最初に貴方達を、封じてしまおうとした理由を……」

「後悔しても遅い」

「ですが、これで賽は投げられた。私の主、アザトースや女神ジュブニグラスが、私を媒体にこの世界に降臨するのだ。退屈な現世界から、新天地であるこの世界へ……。なんと楽しげな事か」


うっとりと、己の世界へと落ちてゆく、ナイアルラトホテップ。

シュリは、忌ま忌ましそうに舌打ちをして見せたが、ふと何かを思いおこしたのか、ナイアルラトホテップに囁いた。


「この世界に居るのは、私だけでは無い。我が兄も健在だぞ。私と兄の双方を相手にする程、お前達は浅はかか?」

「兄……?」


ナイアルラトホテップは、ひとつ、大きなミスをしていた。


「クトゥルー……あれは、ルルイエ神殿に捕われの身の筈……。それに、奴の気配なぞ……」

「しない……か? お前ごときに知られる程、抜けてはいないぞ、あれは」


偉大な兄を『あれ』と表現するハスター。

そんな彼も、ただ者では無い。

ナイアルラトホテップに知らしめる為、チラリとイシスと漣を盗み見る。

シュリの送った目線に気付き、ナイアルラトホテップは、初めて、歯牙にもかけなかった彼等に、視線を向けた。

イシスを護る様に、半歩前に出ている男。

のほほんとした顔付きが、ナイアルラトホテップにだけ解る様に、にたりと笑う顔に変わる。

表情が見える分、漣の顔付きは、シュリ以上に不気味だった。


「なる程、私の入れ物の腕を落としたのは、かの君でしたか……。道理で、背後に立たれても気付かなかった筈だ」


がんじからめにされていた、ナイアルラトホテップは、観念したのか抗う事を止めていた。


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