青碧の魔術師(黄昏の神々)
「もういいですよ……考えたら馬鹿馬鹿しくなりました。煮るなり、焼くなりお好きな様になさるとよろしい」


大人しくなったナイアルラトホテップが、呆れた声でシュリに言い放つ。

彼は一体、シュリの、いや、この場合はハスターの何を思い出したのか。

「まぁ、長年貴方を捕縛するうちにコイツが虜になると考えるべきでした」

「だから浅はかだと言った。恨むなら己を恨め」


意図も簡単に、ハスターにしてやられた、ナイアルラトホテップ。

彼は、苦虫を潰した様な表情を隠さずに、嬉々としたランに連れられ、時空の裂け目に消えて行った。


「はぁ……。鳴り物入りで登場した割に、あっさりと帰って行ったが、あいつ……」

「腑に落ちませんか? ハスター様」


シュリの傍らに、ふよふよとやってきたのは、ルルイエ。

ロイも、空間を元に戻すと、シュリの傍に戻って来た。


「まさか、捕縛の椅子がシュリのアイテムだったとは、思わなかったよ」


驚きなのか、はたまた、呆れているのか。

ロイの声音は判断がつかなかったが、シュリはいっこうに気にするそぶりも無い。

ロイの疑問にシュリは答える事無く、言い放つ。


「ロイ。転身解除。速やかに元に戻れ」

「あぃ。願ってもないもんね〜」


シュリの言葉にロイは、いそいそと可愛い黒猫に立ち戻る。

そしてちらりとシュリを見て、


「シュリは、もどんないの?」


と、シュリにとって、酷な言葉をさらりと言った。


「出来るものならさっさとやってる」


シュリはあらかさまに、嫌そうな声音を隠そうともせずにロイに返事を返した。


「そうだった。セレナがいないから……。でも、イシスならシュリを元に戻せるんじゃ……」


シュリに話し掛けて、フードの奥からギロッと睨みつけられたロイは、背筋が凍る様な寒さを、覚えずにはいられなかった。

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