青碧の魔術師(黄昏の神々)

黄衣の王と黄金の姫君

「イシスを虜にする気は無い。それだけは、したくない……」


悲痛に押し殺した声。

綿々と続く螺旋の糸。

遠い遠い昔。

虚無に支配されたハスターの心が、初めて動いた事があった。

捕われの身の上では、何処へも行けず、退屈を極めていた時、何と無く眺めていた水鏡にふと映し出された少女の姿。


彼女が、欲しい。

無性に感じた、飢餓感。

彼女を手にすれば、この飢えは満たされるのか。

『あの娘を手に入れる為なら、何だってしよう。己の姿を彼女に見せて、その心を手にしようか?』

よこしまな思いのままに、使ってしまった禁じ手。


汚い手を使って手にした彼女の愛は、果たして真実だったのか。

その思いは真(まこと)か。

禁じ手を、使ったせいではなかったか。

ハスターは、是非を知る為の考えなぞ、持ち合わせてはいなかった。


三度転生した少女に、三度出会って、愛し合った。

四度目の出会いは、はたして。

如何なるものなのか。







黄衣の王の姿を纏ったまま、物思いにふけるシュリの元に、駆け寄る黄金(きん)の姫君の姿。


「イシス! 止まれ!」


彼女の姿に気付いたシュリは、思わず制止の声を上げてしまう。

その声の硬さに、思わず、立ち止まってしまうイシス。

どうしたのかと小首を傾げ、シュリに問う。


「シュリさま?」


外套のフード越しでは、シュリの表情も判らない。

シュリは、イシスの問い掛けに、少し間をおいて答えた。


「イシス、トレントの事は無事解決した。ひょんなことからだったがな。トレントは、封じられたまま、さっきの馬鹿が名を語っていただけだ」


『だからもう心配無い』シュリはキッパリと言い切ってフード越しにイシスを見た。


「ありがとう……ございます、シュリさま」


何が不安か、わからない。

だが、イシスには言われたく無い言葉があった。
それを言われそうな気がして、不安に思うのだと彼女は気付く。

そしてとうとう。


「全て、終わった。もう俺のする事は無い」


終わりを告げられて。

イシスは、潤んだ瞳でシュリを見つめた。


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