青碧の魔術師(黄昏の神々)
「御託はいい。この手を離せ」


漣の言葉に、シュリは相変わらず突っ張った物言いで応えた。

気持ちを切り替えたのか。

何かに、躊躇いを見せていたシュリの態度が、唐突に変わった。

だが漣は、シュリの態度にも、意に解さない。

シュリを倒した形のまま、彼にとって、とんでもない言葉を口にした。


「良い加減そのフード、取ったらどうだ? 兄ちゃんは、ここんとこまともに弟の顔、見てないんだけど。お前の婚約者も、見たいと思うぞ」


漣の言葉を聞いた途端、シュリはその場を離れようと、猛烈に暴れ出した。


「ふざけた事を言うなよ、漣! あんただって、解ってる筈だ」

「暴れんなって。解ってるから、わざわざこの老骨に、鞭打ってやろうとしてるんじゃないか」


抗うシュリの動きが、漣の言葉にピタリと止まる。


「まさか……無理だ……これは、持って生まれてきたものだ」

「だから? 何なんだ? 消す事は無理だが、封じる事は出来るぞ? 私ならな」

「つっ……」


言葉に詰まるシュリに、漣がニヤリと笑う。


「なら何故!!」


声を荒げるシュリに、落ち着いた漣の声が重なる。


「今頃、助ける気になったか……だろ。それは、お前が自分のした事を、考え出したせいだからさ。後悔してるんだろ。自分のした過ちに。なぁ、ハスター」


優しげに微笑む漣の顔は、兄、クトゥルーの顔と重なる。

シュリ、否、ハスターは、深く重い息を吐き出した。


「あんたには負けるよ……」

「当たり前だ。こっちは伊達に、お前の兄ちゃんと親父を、やって無い」


きっぱりと言い切る漣には、余裕が垣間見える。

そんな彼が、シュリの首元からフードへと手を移動させた。


「じゃあ、剥ぐぞ」

「力が発動したら恨むぞ」


今一度、漣に言い添えて、シュリは覚悟を決める。

漣の指先が、フードの中に入り込み、ピシッと言う音と、シュリの呻く声と共に、深く被った彼のフードを跳ね上げた。

ハスターの素顔が、初めてあらわになった瞬間だった。


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