青碧の魔術師(黄昏の神々)
「私が説明するかい? それとも自分でする?」

「俺が話す」


簡潔に一言。

はっきりとした声音が、イシスの耳に届き、彼女はキョトンとした顔付きで、シュリを見た。

身体を起こしたシュリの、三つの瞳がイシスを見つめる。

額の瞳が紫青。

通常の人と同じ場所にある瞳が、紫青と青碧。

漣の手がどけられて、イシスにとっては、初めて見る、もう一人のシュリの顔だった。


「俺が怖いか?」

「いいえ、全く。どんな姿でも、シュリさまはシュリさまですね。私、今、確信しました」

「はっ! 物好きな女だな……お前……」


半ば、やけっぱちに聞こえる、シュリの言葉。

イシスは、彼に負けないよう、満面の笑みを湛えた。


「ふふっ……」

「何が可笑しい?」


笑んだまま、小さな声をこぼすイシスに、シュリが疑問の声を上げる。

シュリに数歩、膝立ちで近寄るイシスの髪が、ふわりと揺れる。

彼女は、引き寄せられる距離まで近付いて、可憐な花の様に、ふわりと笑った。


「シュリさま。恋する乙女は強いのです。貴方さまが思う以上に、遙に……」


目を見張るシュリの姿。

イシスは、彼の姿に満足げにうなづくと、


「ですから、何を聞いても驚きません」


力強い瞳でシュリを見た。

そんな彼女に、シュリはあきらめに似た溜め息を吐く。

シュリの方が、イシスに陥落した瞬間だった。

彼女の方がよっぽど、魅力がある。


黄衣の王が、黄金の姫君に、魅了された瞬間だった。








「俺……この場合ハスターである俺の事なんだが、存在した瞬間から、持ち得た力があってな」


シュリはそこまで話して、イシスの様子を伺った。

全てが丸く収まって、周りの人々がシュリ達の下に集まった。

念のため、もう一度外套を目深に被り、今はテーブルと椅子のある部屋で、話しをしていた。

勿論、パーティーはお開きになってしまった。

だが、間近にあった危機は避けられたのだ。

皆が喜びに湧いたのは、言うまでもない。


「そこに存在するだけで全てを魅了する。それが、無機質な道具であったとしても」
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