青碧の魔術師(黄昏の神々)

姫の決断

「私に、話……?」

「そう、君に」


真面目な漣の瞳に、ぽかんとしていたイシスの表情が引き締まる。

漣が醸し出す気が、和んでいた場の空気を一変させる。

それ程に真面目な漣。

ふざけた感は一切無い。

もしかすると、これが本当の漣かもしれないと、イシスは、感慨深げに頷いた。


「私に、どのような御用件でしょう?」


漣が、周囲を見渡して、最後にイシスに目を留める。

彼は、小さく息を吸い込むと、イシスの瞳を見つめ言った。


「イシスちゃん。シュリを愛してるかい?」

「はい。愛しています」


間髪入れずに答えるイシスに、迷いは無い。

そんな彼女に、漣は片眉を上げる。


「なら、この先どうするのかな? シュリは歳をとらないよ。君は老い、シュリはこのまま……。君も又、セレナちゃんの様に、シュリを置いて行くのかい?」


『決して責めている訳では無いよ』と、言い置いて、漣は、イシスの返事を待つ。

痛い所を突かれたようだった。

考え無かった訳では無い。

だが、考えても致し方ない事。

それが、シュリとイシスの、深くて大きな溝。

両者の差異だった。


「私は……」


目に見えて気落ちするイシスに、漣が問う。


「イシスちゃんに、聞きたいんだけどね。いいかな?」

「……」


泣きそうな表情のイシスに、漣が優しく笑う。

辺りは、しんと静まり返り、居住まいを正すイシスの、きぬ擦れの音だけが、静かに鳴っていた。


「イシスちゃんは、永遠の命……、不老不死をどう思う?」

「不老不死……」


おうむ返しの如く、呟き返すイシスに、漣は笑って頷く。


「人の身には過ぎた事だと思います……」


小首を傾げて、自分なりの答えを出すイシスに、漣は続けて問う。


「何故、過ぎた物だと思う?」


漣の唐突な問いに、嫌そうな顔一つせずに、考えをまとめながら、答えを出してゆく。


「遥か昔から、人が求めていた物の、代表的な物ですよね。不老不死とは……。そして、人はそれを求めて争いあった。有るのか、無いのか解り得ない物の為に……です。」



< 115 / 130 >

この作品をシェア

pagetop