青碧の魔術師(黄昏の神々)
「私は、そんな、たいそれた者では有りません……ただの……人間です」

「ん〜、どうやら驚かせたみたいだね?」


漣は、小首を傾げるとシュリが言う所の、『腹黒い』微笑みをイシスに投げかけた。


「その正体が、『神』と、呼ばれる男の力を受けるんだよ。普通に終わるはずが無いでしょ。神の妻は女神。まぁ、神と人の婚姻は、有るには有るけど、大半は人間のままで、神の力を受ける事は無いからね。受ければその者も必然的に神となる。そう、決まっているんだよ。イシスちゃんには、後悔してほしく無いんだけど、遅いよ。意にそわなくても、君は選んだ。賽は投げられたんだよ……」


イシスが、言葉を発する前に、漣が動く。

彼女の額に、シュリから引き出した球を、押し付けたのだ。

球は、帰る場所を見つけたかの様に、するすると、イシスの額に滑り込んで行く。

全てが彼女の中に入り終えた頃、事が始まった。

身体が、ぼろ雑巾の様に捻り潰され、引っ張られ、細かく、引きちぎられる感覚。

余りの痛みに、ソファーに深く沈み込んでいた身体が、弓なりに反り返り、細く長い悲鳴が、可憐な唇から漏れ出る。


「れ……ん……きさま……」


イシスの悲鳴が、届いたのだろうか。

まだ、息すら整っていないシュリが、身体を起こして、イシスへと腕を伸ばしていた。

ずるずると、ずり落ちる様にソファーから移動し、イシスを掴むと腕に抱える。

大量の力を失って、目眩の様な、虚脱感に襲われているシュリの額に、脂汗が浮かぶ。


「今すぐ……取り除いて……やるから……な」


なんとか息を整えて、イシスに告げて、彼女の心臓に、手を添えようとしたシュリの手首を、小さくて細い手が掴む。

弱々しくて、入らない力。

苦痛に歪む顔も可憐な彼女が、無理矢理に瞼をもたげ、シュリを見る。

そして、痛みに耐えて、力ある瞳で訴える。


『そのままに……』


と。


『わたしが望んだ事なの……』


と。


シュリが眉をしかめる。

彼女の声が脳裏に響く。

だからなのだろう。

シュリは、イシスを見つめ、呟いた。


「馬鹿が……」

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