青碧の魔術師(黄昏の神々)
「シュリさま……あの……」

「離れるな。今、お前が力に蝕まれ無いよう、抑え込んでいる。離れれば、また侵食が始まる」


顔を赤らめ、抱擁に、はにかんでいたイシスだったが、シュリの言葉にはっと我に返った。

好かれて、愛されての、抱擁では無い事を思い知って、イシスは、涙を零しそうになった。

そんな彼女の、微妙な変化を、感じ取れた所はさすがと、言えよう。


「また、泣きそうな顔をしている……」


そう言った、シュリの言葉に、


「シュリさまの意地悪……」


大きな瞳に、涙を溜めたイシスが、抗議の声を上げる。


『貴方を、愛しているのに』


『惑わされているのでは無いのよ』


『何度でも愛するわ』


『出会い方も愛し方もきっかけに過ぎないわ。ようは、どう思いあったか、どう愛して、その愛に、悔いは無かったか、よ』



イシスの心に、浮かんでは消える、心の声。

それは、イシスの思い、だけでは無かった。

彼女であって、微妙に違う、イシスの知らない二人の女と、良く知るセレナ。

彼女達の笑顔と、セレナの飽きれ顔。

いつの間にか、閉じた瞼の裏に、現れては消える彼女達の姿に、イシスは悟る。


『私ではない私』


『そうよ。当たり。4代目のあたし。あたしは、最初に見初められた貴女』

『私は2度目に愛された貴女』

『わたしは……知ってるわね』


次々と、イシスを囲む女達が、彼女を抱きしめ、離れて行く。


『良く、決心したわね』


最初の女がスルリとイシスの顔を撫で、離れる。

すると、二人目が近寄って、イシスの頭に触れる。


『あの人は、私達が惑わされていると、思ってるのよ……。違うのにね』


女の言葉に、イシスは顔を上げて、コクンとうなづく。


「私は、シュリさまを、夢に見ていた頃から、好きでした……。勿論、今も好きです。あの方と接して、どんどん好きになる、自分がいるの……」


イシスの告白に、嬉しそうにうなづく女二人に続き、セレナが彼女に言葉を掛ける為、近寄った。
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