青碧の魔術師(黄昏の神々)
「あたし達は、皆、彼が好きよ。でも、あたし達、彼にとても自分勝手な事をしたわ。自分本意な、愛し方をしていたの。けれど、貴女は違った。彼とともに、生きる事を選んだ。感謝するわ。あたしたち、貴女に……」

「私は、感謝される事は何もしていません。それに私も怖かったのです。永遠に生きると言う事が……」


不安げに揺れ動くイシスの眼差しが、セレナを捉えた。

セレナは、ふっと柔らかい笑みを両頬に讃えると、イシスの頭を撫でで言った。


「それでも貴女は決断したの。あたし達はその勇気を讃えるの。あたし達が、力を貸すわ。だから貴女も頑張って……」

「セレナさん……」


同じ魂を持っていても、個々、それぞれ、考え方も行動も違う。

だからこそ、彼女達は未来へと思いを託せるのかも知れない。

イシスに託す、各々の思いが、力となって彼女の中へと流れ込む。

女達は、一人づつ、イシスの中へと入り込み、彼女の、新たな力へと変わり行く。


『貴女の思いは、私の思い……』

『私の希望は、貴女の未来……』


甘い甘い、夢の様な時間の記憶。

イシスの知らない時の記憶、それが彼女に染み込んで、イシス自身の記憶に置き換えられて行く。


呆然としているイシスを、最後に残ったセレナがギュッと、抱きしめた。



『イシス、シュリをお願いね……。彼を愛したあたしの記憶、貴女にあげる。貴女は何も心配しなくて良いの……。あたしは、貴女の中で眠って溶けて、貴女の一部になるだけだから……あたし、また、彼を愛せるのね……今度は、永遠に……』


後半は誰に言うでも無く、セレナは、満足げに呟く。


『ありがとう……イシス』


イシスに吸収される為に、その存在が、段々と薄れて行くセレナを、イシスは思わず、抱きしめ返そうと試みる。

だが、それも叶わず。

彼女は、イシスの深層心理へと光の玉となり、弾けて消えて行った。

後に残るは、ただ、ただ、自身をかき抱く様に抱きしめる、イシスだけだった。

真っ暗な世界となった、その場所に、ぽつんと小さく輝く光が現れると、イシスは現実と向き合う時が来たとばかりに、顔を上げ光を見据えた。

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