青碧の魔術師(黄昏の神々)
ふわり。

浮遊感に捕われて、現実に戻ってきたイシスが、そこで耳にしたのは、毒気を孕んだ、シュリの威圧的な声。

勿論、イシスに向けられた物では無い。

イシスの兄も、彼女には特別甘いが、実はシュリにも、その嫌いがあった。

イシスも、シュリやハスターが、追い続けていた魂に他ならない。

それが分かっていて、とぼけ、少しづつ狂い続けるシュリに、漣は気が気では無かった。

だから、イシスを騙す様に唆し、思惑通りに事を進めた。

シュリは、その漣の行動を、批判したのだ。

イシスの耳に、自然と二人の会話が届く。

その場の雰囲気は、彼女が声をかけるられる物では無かった。


「唆した……? 確かに、そう思われても仕方が無いね。でもね、シュリ。私は彼女の決断まで騙し、強要した訳では無いよ」

「だが、イシスの馬鹿正直さを、利用しただろう? 彼女を言いくるめ、促した。俺は、彼女を俺と同じ境遇にはしたくない。こんな地獄、俺だけで十分だ」


挑む様な強い意思を孕んだ瞳で、漣を睨みつけるシュリに、漣の溜め息が、部屋に静かに落とされる。


「シュリ……。お前は分かっていない。私達はね、誰も愛してはいけなかったんだよ。孤高で成らなくてはいけなかった。その意味に、お前は気付いていない」


漣の、呟く様に紡ぎ出される言葉が、室内の空気を重くする。

吐露される、偽り無い感情。

彼の過去に、一体何があったのか。

今ここで、知る事能わぬ漣の生き様。

珍しく真剣な父親の声音に、シュリはふうっと細い息を吐いた。


「ここで、家庭の事情をあからさまにする気は無い。だが、言わせて貰う」


シュリの強い意思は、ぶれる事無く明確に伝えられる。

イシスの心にも。


『好きだから、今度こそ、彼女の魂に自由を。俺(ハスター)から解放してやりたい……だから』


そんなシュリの思いを、感じ取ってもなお、イシスの気持ちは変わらない。


『私は……いえ、私達は、謀れてシュリさまを愛した訳ではないわ。この思いは私達のもの……だって、私達も貴方に一目惚れしたのですから……』


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