青碧の魔術師(黄昏の神々)
『ねぇ、そうでしょう……私……』


自問自答するイシスに、シュリの、はっきりとした言葉が、聞こえてきた。


「もう、良いだろう。俺は彼女を自由にしてやりたい……」

「シュリ……。思い上がってんじゃぁないよ。それを決めるのは、君じゃない。彼女だよ」


漣の少しきつい声が、イシスの耳を打つ。

彼にしては珍しい声音に、イシスの指がぴくんと動いた。

ごく僅かな反応。

正しくその通りだと考えた彼女は、力を貸すと約束した、三人の彼女の前世に祈りを込めた。


『私は、今、私の中にある、この力を受け入れたいの……お願い……力を貸して下さい……』


目前にある、紫青の玉を包む様な感覚が、イシスの心に沸き起こる。

それと同時に、現実に置かれた彼女の身体に、異変が起きた。

それにいち早く、気付いたのは漣だった。


「それに、イシスちゃんの決心は、堅かった様だよ。シュリ」


漣が、シュリの腕の中のイシスを指さす。

彼女は、シュリの力の玉と同じ光りに包まれていた。


「何故……だ……?」


シュリの呟く声が、僅かに震える。

正しく、驚愕(きょうがく)するとは、こう言う事を言うのだろう。

シュリは、開いた口が塞がらないでいた。


「何故だ? イシス……こんな事をすると、二度と人には戻れないんだぞ……」


不安と、僅かな期待が入り混じる、シュリの声音。

そう、彼が目にした光景は、イシスの中で止まっていた、シュリの力の侵食が、再び始まっていたと、言う状況だった。

食い入る様に見つめるシュリ。

その様子からして、今度は、先程とは随分様子が違う事が伺い知れた。


苦しんでいた彼女が、今は、眠る様に穏やかに、光に身を任せている。

光の玉がまるで、イシスを護っているかの様に、見える。

元来、シュリの力とは、彼の命そのもの。

彼女を心底愛するシュリなのだから、彼の力が、イシスを傷付けたりしないはずなのだ。

今、ようやく本来有るべき力の受け入れ方に、行き着いたのだった。

紫青の光が、段々収束していくと同時に、イシスの額に何か、紋様の様な物が浮かび上がる。

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