青碧の魔術師(黄昏の神々)
「さあ、戻るんだイシス」

ボンボンらしき青年が、シュリの後ろの少女に言葉を投げ掛けた。

シュリの背に庇われた少女―イシス―が、キュッとシュリの服を掴む。

シュリは、そんな様子の彼女の手をぽんぽんと叩いてやって、落ち着かせると、「やれやれ……」と、小さく呟き、対峙した青年に向かって言い放った。


「女の後を追いかけ廻すのは、男としていかがなものかと思うが……」

「貴様には関係無い。後に隠した娘を、こちらに渡せ」


とても、尊大な青年の物言いに、シュリはいらだちを覚えた。

様は、カチンと来たのだ。


「渡せって言われて『はいそうですか』って言うと思うのか? だとしたら余程の馬鹿か、世間知らずのボンボンだな。ま、どちらにしろ助けると約束したんだ。渡す訳にはいかないな」


シュリが、大々的に動く為にはどうしようもないしがらみが存在する。

契約と言う約束事。

現実には、イシスと契約を、結んではいない。

だが、彼女をこのお坊ちゃま貴族に、簡単に渡すのもけたくそ悪い。

『さてどうするか、だな。契約無しでは術は使えないし……』


「では、お前を引っ捕らえて、イシスを我が元へ連れ帰ろう」


シュリが思案しているうちに青年は痺れを切らしたのか、苛々した声音でそう言い放ち、さっと右手を引き上げた。

それが合図となり、青年の後ろに控えていた3人が、シュリ目掛けて飛び掛かって来た。

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