青碧の魔術師(黄昏の神々)
イシスの揺れ動く心が、全て御見通しだとでも言うのか、女性は頷くとイシスに語り出した。


「よくお聞きなさい。イシス。貴女は明日、この城を出て、街へ行くのです。」

「街へ……ですか?」


女性はこくりと頷くと、イシスをいちべつし、話を続けた。


「街で貴女は『青碧の魔術師』を探し出さなければなりません」

「『青碧の魔術師』……そんなの、無理です! だって、かの人は伝説上の人物です! 実在するはずがありません!」


そう叫ぶイシスに女性は、悲しげに顔を歪ませる。


「忘れてしまったの? 何時も夢に見て、貴女と共に過ごしていた少年は、覚えている?」


イシスは、弾かれた様に顔を上げる。

何時から見始めたのか定かではない夢。

最初に彼と出会ったのは、精巧に造られた花園の中だった。

それから今まで、ひんぱんではなかったが、彼の夢を見る様になった。

会う場所は何時も同じ花園で、イシスは会う度に名も知らぬ彼と話し、彼に惹かれて行った。

その彼が。


『あの男の子が青碧の魔術師?』


「あなたの言いたい事が、よく解りません……。だって彼は私とあまり歳が変わりませんし……」

「貴女の夢の中の彼はね。その内、解るでしょうけど。彼は、貴女の知る彼と少し違うの。それから、今もこの世界にちゃんと生きているわ。私にとっては、伝説の魔術師でも何でも無い人だけど……」


遠い目をして懐かしむ彼女の顔が、優しく和んでいる。

イシスは、何故かとても女性の事が羨ましくなっていた。

彼女は、しばらくしてからイシスを認め、申し訳なさそうに笑った。


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