青碧の魔術師(黄昏の神々)
そうしてイシスは、夢のお告げのまま、誰にも何も告げないで、城を飛び出した。

まだ辺りは薄暗く、太陽も昇ってはいなかった。

街の中をさ迷い歩く。

宛て等無い。

居るのか、居ないのか、解らない男を探して、街中を歩き回った。

何処までも歩いて、歩いて。

時間も忘れて歩き回って足が棒になった頃、辺りは賑やかになっていた。


「どの位歩けば会えるのでしょうか」


街の中心広場に在る、大きな噴水の縁に腰掛けて、疲れた足を休める。

足が、靴に擦れて赤くなっていた。


『こんなに歩いたのは初めて……』


フフッと笑いが漏れる。


『私ったら夢の出来事を間に受けて……こんなになるまで捜し続けるなんて……』


『馬鹿ね』


そう考えながら疲れた足を休める。


『夢で会う彼が本当に居るなら会いたい……。きっとそれが私の本当の思い』


イシスがしばらく休んでいると、彼女の兄と兄の腹心の部下を見付けた。


『いけない!! このままでは見付かります……』


人込みに紛れそっと歩き出す。

けれど、イシスは兄の部下達に見つかってしまった。

彼女は、走り出した。

あちらこちら走り回って、息も絶え絶えになって、そして、


『あぁ……此処にいては、捕まってしまうわ。今捕まっては、全てが水の泡になってしまいます!』


その時だった。

通を曲がった先、男の人が1人。

スラリとした背の高い人。

後ろ姿ではあったが、朝の光を浴びて輝く青銀の髪は、驚く程綺麗で……。

一目見て解った。


《私の貴方――!》


今思い返すと、何故その言葉が頭に過ぎったのか、イシスにはよく解らない。


『あの感情は、セレナさんの物だったのでしょうか……?』


ただただイシスは、喜びのあまり彼に飛び付いていた。




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