青碧の魔術師(黄昏の神々)

プロローグ

『これは夢だ』


彼は心の片隅でそう感じていた。

なのに夢は、懐かしさと言う甘美な色を伴って、彼を捕らえて放さなかった。

まどろみは、母の胎内にある赤子のように、彼を夢の中でたゆたわせる。

そして夢は、彼の愛しい女を出現させ、その腕に抱(いだ)かせた。

彼等は、生まれたままの姿をさらけだし、互いの熱を奪い合う様に肌を絡め合わせる。


当事者である彼が、いつの間にか、その様子を少し遠くから見つめていた。

愛する女の微笑みに、彼は真実を思い出す。


『そうこれは夢なのだろう。なら、早く覚めてくれ――』


彼の心が《過ぎた思い》にわしづかみにされて、悲鳴を上げる。


彼の叫びが通じたのか、身体が後ろへと引き寄せられた。

その事態に彼は、ホッと安堵の息をはく。


辺りが白い光りに包まれた。

それは、覚醒の兆し。



「決して、悟られないで……。貴方の力は権力を持つ者ならば誰もが欲しがる物。だから私は貴方に私の持つ全てを与えたのだから……」



女の顔が、切ない表情でこちらを見つめている。

彼も彼女を見つめた。

女の顔が花開く様に鮮やかに綻ぶ。

そう

彼女は彼の、今は亡き愛する戦乙女。

彼に向かって彼女が、細い腕をのばす。


「お願い、生まれ変わった私を見つけて……。彼女を助けてあげて。それが出来るのは貴方だけだから……」


愛する女(ひと)を置いて、直も後ろへと手繰り寄せられる彼。

彼女が段々小さくなる。


『夢だと解っているのに……』


「セレナ!! 」


思わず声を荒げてしまう。


「お願いよ。彼女を助けて!」


セレナは薄れゆく彼に、思わず手をのばした。


『そして願わくばもう一度、彼と恋がしたい。今もまだ愛する貴方と……』







「愛してるわ。シュリ」





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