青碧の魔術師(黄昏の神々)
「不謹慎だぞ。お前」


呆れた風を装う声で、シュリがロイを諌める。

ロイは鼻をひくつかせると、


「だっておいら猫科の生き物だもんね〜。獲物だ〜い好きだもん」


と言いながら、ソファーの居心地に丸くなる。

やがてシュリの傍らから寝息が聞こえて来た。

シュリは、うとうとと眠り出したロイを見て、微笑む。


「明日からは忙しくなる。ゆっくり休むといい」


《いたわり》と言う言葉の優しい響きを心から、理解出来ないシュリの、精一杯の優しい声音だった。

ふと、風に乗って運ばれて来る人々のざわめき。


城の別棟が騒がしい。


姫君の、誕生日の祝宴の準備なのだろう。

馬のいななきが、馬車の車輪の軋む音が、微かに響く楽器の音が


客の到着をしらしめていた。





シュリが何かに誘われる様に、ソファーから立ち上がる。

足が自然とテラスに続くベランダへと向く。

大きな窓を押し開けて、テラスから外へ出た。


むせ返る程のかおり。

色とりどりの花の甘い、甘いかおりが、シュリを懐かしさで包み込む。

子供の頃に過ごした場所に。

セレナと過ごした場所に。

咲き乱れた花々は、甘いかおりを撒き散らしていた。

否応なしに思いださされる想い出達。

花々に囲まれて、表情を落としたシュリが、佇んでいる。


《ガサリ》と、植え込みが揺れる音がして、シュリはそのまま反射的に振り返る。

現れ出でたのは、

黄金を纏った様な天使。

シュリの黄金の乙女。

その再来。






「イシス――」



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