青碧の魔術師(黄昏の神々)

花びら舞い散る中で

眼下に広がる花園は、イシスの夢に出てくる花園と似せて造られている。

母に請われて、記憶に有るままに伝えた造りに、母は満足してこの花園を造り出した。

今では、国の自慢の一つとなっている。

その花園を見下ろしていると、中心近くに男性が立っていた。

風に煽られて、青銀の髪がなびく。


『シュリさまっ!?』


二階からでは、彼の表情は見えない。


『けれどきっと、あの方の顔は、無いに等しいあの表情――』


彼が、寂しそうに呟いた『俺には感情と言う物が解らない』と言う言葉。

イシスにはそれが真実とは思えない。


『だって、あんな情熱的なキスをする方ですよ!? きっと長い間、一人ぼっちで居たせいで、感情を殺して生きて行かなければならない程、辛かったのだと、思います』


イシスは、その場を駆け出して行く。


『まだそこに居てくださいね。私が、貴方の御側に行くまで――!』


ロングのスカートをひるがえし、慌てて階段を駆け降りる。

気が急(せ)く。

一階の、階段横の扉から、中庭に出る事が出来る扉が一つ。

その重い扉を両手で押し開け、傾く夕日のオレンジ色の光りの中に飛び込んで、イシスは花園目指して、再び走り出す。


勝手知ったる花々の中、迷路の様な花園を、イシスは駆け抜けて、愛しい人へと後少し。

もう少しと言う所で、何故か頭を過ぎった、契約と言う名目でなされたキス。

イシスの顔が、羞恥で真っ赤に染まりあがった。


『逢いたいのにっ!!』


『恥ずかしい……』


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