青碧の魔術師(黄昏の神々)
躊躇(ちゅうちょ)していたイシスの背中を押す様に、風が吹き付ける。

花びらがざあぁ……っと舞って。

植え込みを揺すった風と共に、イシスはシュリの前に押し出される形で姿を現した。

イシスを認め、驚いた様子で彼が呟く。


「イシス――」


「あっ……ごっ、ご機嫌いかが?」


『って! なっ、何言ってるの私!!』


あまりの慌てぶりに、支離滅裂な事を言ってのけるイシスに、シュリは何の反応も無く首を傾げる。

ここは普通、笑う所なのだが、彼にはそれが解らない。


「機嫌は……善くも無く、悪くも無く……普通ってとこだな」


至極真面目に話すシュリに、今度はイシスが目を丸くする。


「イシスは……その……大丈夫か?」


躊躇いながら声をかけるシュリに、イシスはクスッと笑う。

シュリは、笑われた理由が分からず、イシスを表情の無い顔でじっと見た。

説明をこう、シュリの視線にイシスは、ニコッと笑って彼に近付いた。


「何を話せば良いか分からない、私の咄嗟の変な問い掛けに、真面目に答えて下さるのですもの……。それが、可笑しくて」

「そうか? まぁ、元気になったのなら、良いんだ」


安堵するシュリに、イシスはふと、有る事を思い出して、彼に問い掛けた。


「シュリさま。お聞きしたい事が有ります。宜しいでしょうか?」


改まった、イシスの口調に、シュリは、ただこくりとうなずく。

二人は立ったまま、お互いを見つめていた。

風が大地に落ちる花びらを、優しく巻き上げて二人の間を、くるくると回る。


イシスはその中で、シュリに、聞きたかった事を 聞く為に、唇を開いた。
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