青碧の魔術師(黄昏の神々)
「シュリさま。今回の契約の儀式は、キスをする以外の選択肢は、無かったのでしょうか?」


イシスの意外な問い掛けにシュリは、少し難し気な顔付きで答えた。


「普通の契約なら書面で良い。だが今回のは遺伝子採取の目的があったからお前にキスした。他の方法は、有るには有るが、時間のかかる方法か、お前の血を貰う方法しか無い。痛いのは嫌だろう?」


無機質なシュリの声音が、イシスの心に悲しみを沸き上がらせた。


『私の初めてなのに……シュリさまの馬鹿』


イシスの目が、怒った様にシュリをねめつける。

シュリはシュリで、何故彼女がそんな目で、彼を見るのか分からなかった。

イシスがシュリに向かってゆっくりと、両の手を掲げる。


「シュリさま……」


切な気に彼の名を囁くイシスに近寄り、首に腕が廻せる位まで身体をかがめる。

イシスは、彼の両頬に手を添えると愛おしそうに撫でた。

次の瞬間。

パン!!

シュリの頬が渇いた音を立てた。

殺気でもあれば、察しがついて避けれただろう。
だが、切ない表情でシュリを見つめるイシスに、殺気等有る筈も無い。

そんなイシスの、彼の頬を叩く行動は、ちまたで言う所の《ビンタ》だった。


「な……」


シュリの喉から、掠れた声が漏れる。

意外な人からの意外な攻撃は、さすがのシュリでも、避ける事が出来なかった。


「ふぅ……。シュリさまの失礼、窮まり無い行動は、これで許して差し上げます」

「い、イシス?」


シュリにはやはり、叩かれた理由がさっぱり分からない。


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