青碧の魔術師(黄昏の神々)
「シュリさまは、先程、感情が理解出来ないと、おっしゃいました。でも私はそうは思いません」

「……」


シュリは言っている意味が解らないと、言うかの如く、目を細めてイシスを見る。

腕を組み、やや、首を傾げた風で、イシスが再び話し出すのを静かに待った。


「シュリさまは、感情が解らないのでは無く、長い間生きてきて、感情を忘れてしまいたくなるような事があって、そしてそのせいで忘れてしまったのです」


イシスはそこで一旦語るのを止め、意志の強い蒼い瞳でシュリを見た。

シュリの力無い青碧の瞳を、イシスは見据えたまま、更に強い口調で話し出す。


「大切な方を亡くされて、たった独りで生きてこられて、孤独の痛みに耐える為に少しずつ感情を殺していった……。それが悪い事だと私は思いません」


最後の言葉を、優しく囁く様に告げて、イシスはシュリの言葉を待った。


『シュリさまは私の言葉に、お気を悪くなさるかも知れません。けれど私は……』


シュリが口を開く。


怒りの一声が掛けられると思いきや、彼がついたのは深い溜め息。


「本当はここで『お前に何が解かる』とでも、言う所なんだろうな……。だが、当たっている分、反論もしづらいか……」

「シュリさま、私」


イシスの言葉をさえぎる様にシュリが、彼女に語り掛ける。


「イシスは強いな。君を側に置けば、俺も少しは人らしくなるのだろうか……」


そう言ってシュリは、自問自答する。

「いや」と言って首を振り、


「ありえないな」


と、呟いた。


「何故ありえないのですか? 私が貴方の御側に、居てはいけない理由が有るとでも、おっしゃるのですか!?」



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