青碧の魔術師(黄昏の神々)
じっと胡散臭そうに睨み付けるシュリに、男は肩をすくめると、溜め息を付いた。


「私ってそんなに信用無いかい?」


いじけモード、バリバリ入りまくりの男の言葉に、シュリは冷たい口調でとどめを刺す。


「信用? そんなもの、かなり昔に捨ててきた……」

「ひ……酷いなぁ……。これだから、息子ってのは……。やっぱり、持つなら娘だよねぇ……セレナちゃんは、ほんと、可愛い娘だったよなぁ……」


昔を懐かしむ男の言葉に、シュリの眉がピクリと上がる。

男がシュリの様子を見る事無く、


「だからセレナちゃんの分身のイシスちゃんと、うちの馬鹿息子の、恋の掛橋になろーかなって思ったのに――」


――上手くいかないね――


と呟いて、しっかりとその呟きを聞いたシュリが、驚いて弾かれた様に男を見た。


「も……もしかして……あの風は……」

「あはは――。結構、凝った演出だったでしょ。春の嵐みたいで……。演算に手間、掛かったけど良い仕事したなーって、我ながら誉めてやりたい。んー。きっとシリルなら誉めてくれるね」


――うん、うん――

そう頷く男の横で、俯いたシュリの握り締めた拳と肩が、ふるふると震えていた。


唐突に、それこそ唐突に、シュリの中に『怒り』の感情が沸き立つ。


『この――馬鹿――!!』


「この――!! くそ馬鹿――親父が――!!」


この馬鹿親父の前でだけは、シュリも感情を抑えきれない。

シュリの怒りが、頂点に達した時、彼の足元から風が緩やかに立ち昇る。

それが、彼の周りを渦巻いて小さな竜巻を形どった。


「ちょっと待った! シュリ! 本気じゃないよね?」

「冗談とでも、思っているのか?」


コオォォォ――

と、風が小さな悲鳴を上げる。

シュリの怒りに呼応して、風が、鎌首を持ち上げ、立ち上がる蛇の様に姿を変えた。


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