青碧の魔術師(黄昏の神々)
「どうしてもこれ、着なきゃいけないのか……?」

「はい。私はエステル様より、そう伺っておりますゆえ……ささっ、観念してくださいませ」


シュリは、最後の最後迄、拒否の姿勢を崩さず頑張ってはいたが、そこはそれ、メイド家業の長いコロナだ、まるで子供の様に嫌がり逃げようとするシュリに、まんまときらびやかな王子様服を、着せたのだった。












「ギャッハッハッハッ〜」


寝ていた筈のロイが、コロナが出て行ってすぐに、ムクリと起き上がって来て、シュリを見た第一声が、この大笑いだった。


「なはははは〜!! さすが!! 魔術師! いょっ! 馬子にも衣装ってのはこーゆー事を言うんだなっ!!」


ナハナハとお腹をよじらせ、ソファーでのたうち回って笑うロイに、シュリは拳を握り締めて怒りに耐えていた。

少し長めの銀髪を後ろで括られて、黒い紐で結ばれている。

白地に金の刺繍の衣装は、シュリの屋敷の書庫に有る、地球の書物に書かれている、中世ヨーロッパの衣装にとても酷似していた。

彼は、正に王子様だった。


「きさま……。どうやら死にたい様だな……。いや、殺しても死なないから痛い目か」


低く地を這う様なシュリの言葉と声に、ロイは笑うのをピタリと止めた。

いつの間に持ち出して抜いたのか、ロイの首にシュリ愛用の長剣が、皮一枚の所でピタリと止まっている。

キラリと光る切っ先に、ロイが喉を鳴らして唾を飲み込む。

ただ、安心出来たのは、シュリが怒りの表情を作って見せている事か。

彼が本気なら、表情など作らないのだ。

ロイは経験上それを知っていた。



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