青碧の魔術師(黄昏の神々)
シュリは考えを巡らして、何かを思い立ったのかフッと息を吐く。

この服を贈ったのはエステルだ。

この王子様、どうやら見た目よりも、かなり食わせ者だと感じ取った。

端から見たらただのシスコン。

だがそのじつは。

腹に一物を抱える人物。


『まぁ……いずれはこの国の王になる奴だ。それなりに野心の一つでも無いと、務まらんさ……』


だが、シュリもタダでは起きない性格の持ち主だ。

トレント退治が済めば、謝礼を貰って彼女とは二度と会わない。

そう考えていた時、シュリの脳裏にはにかむ様に笑うイシスの顔が浮かんだ。

何故なのか。

どうして彼女の顔を思い浮かべるのか。

シュリには、その理由が解らなかった。


「シュリ、シュリってば!!」


シュリは足元で、けたたましく名を呼ぶロイに気付き目線を下げた。


「悪い……考え事をしていた」

「あ〜もうシュリってば。もうすぐご飯だねって言ったんだよ。あーもうおいら楽っしみ〜」


満面の笑みをその顔に浮かべ、ロイは屈託無く笑い、はしゃいでいた。

だがそこで、ロイがかけられた言葉は無情極まり無い物だった。


「あぁその事だが、生憎お前は、此処でお留守番だ」

「へっ?な、なんて?」


ロイは、まるで聞こえ無かったかの様にもう一度聞き返した。

シュリの言葉に、ロイがあんぐりと口を開けたままで固まった。

その表情は魂が抜けた様で、まさに『生気が無い』と、言う言葉を地で行っていた。



そして一拍置いてから、ぎゃあぎゃあと喚き出した。



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