青碧の魔術師(黄昏の神々)
「うふふっ……」


イシスが、小さな声で嬉しそうに笑ったのを見て、シュリは、怪訝そうに問いかけた。


「何か、可笑しいか?」

「いいえ。服が、お揃いなのね、と思って……。私が、ベールを被っていれば花嫁さんですわね」

「確かに……ね……」


回りに対する……。

とくに、イシスを狙う魔人に対する、カモフラージュなのか、それとも、本気でシュリとイシスをくっつけたい、エステルの計画に蓮が根回しした策略か、シュリは推し量る事が出来ないでいた。

彼は、手を取った侭ゆっくりと、イシスを階段から連れ降ろした。


「今から、結婚式の予行練習でもしておくかい? 相手が俺で申し訳無いけどね」

「シュリさまがいい……」

「ん? どうした? 何か言ったかい?」


小さく呟いたイシスに、シュリは聞こえなかった振りをして、言葉で、ごまかす。

自分と共に生きたいと願う、彼女の思いに気付きながら、シュリはイシスをはねつけた。

イシスはそれに気付いているのか、何度でもぶつかって行こうと心に決めているのか、シュリの思いにも怯(ひる)む事は無い。


「シュリさまが良いのです。愛しているのは、貴方だけ……」


今度は確実にシュリの耳に届いた筈なのに、彼は黙ったまま、イシスの思いには答えず、最後の一段を降りきった。

その時、シュリの手が自然な動作で、側に来たエステルに、イシスの手を預ける。


「あっ……!」


イシスの唇から、咄嗟に声がもれた。


『どうして何も答えて頂けないのですか? そんなにも、私の気持ちは迷惑なのでしょうか……あの方に嫌われる位なら、いっそこのまま……』


今にも泣き出しそうなイシスの気持ちに、気付かぬ様子のシュリは、役目を終えてホッとしたのか、なるべく目立たぬ様、その場を立ち去ろうとしていた。


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