青碧の魔術師(黄昏の神々)
そこへ、シュリを呼び止めようと、エステルが彼に声をかけた。


「魔術師殿!もう少しここに、居てくれないか? 少し話したい事がある。イシスの隣に居てくれ」


耳打ちするようなエステルの言葉に、シュリは彼をいちべつして、軽く頷いた。

イシスの側に戻るシュリを確認して、エステルは今日、この場に来た来賓達を眺めた。

皆、小声でヒソヒソと何かを囁いている。

彼らの視線は、イシスとシュリにむいていた。


『良い傾向だな、皆の意識が二人に向いている……計画に移すなら今がチャンスか……』


エステルは、回りの様子からそう判断すると、ざわつく一同を右手を上げる事で制した。

彼が、すっと辺りを見渡す。

威厳を纏い、辺りを見渡す彼はもう既に、次代の王の貫禄を身につけていた。

そんなエステルに注目が及ぶのは、当たり前と言っても過言ではない。

この場に居る全ての人々が、次に彼が何を話すのか、固唾を呑んで見守った。


「今日は、王女のために遠路はるばるご苦労であった。王に成り代わり、礼を言う。この度このイシス姫が、十八歳の誕生日を迎える事は、喜び以外の何物でも無い。皆で大いに祝ってやってくれ」


エステルの言葉に、場内がわっと活気を帯びた。

次々とおめでとうの言葉が飛び交い、姫の人気の度合いが窺い知れた。

そんな賑やかな談笑の渦の中、エステルが今一度片手を上げ、皆の会話を止めた。

何事かと注目が集まる中、彼は来賓全てに訴えかけた。


「皆の者。注目して貰ったのは他でも無い。我等が国の宝、イシスの事だ」


エステルは、会話を切ると回りをぐるっと見渡した。

凛とした態度と声。

自然と皆が再び彼に注目の目を向けた。


「イシス姫が、レントオール山の魔物に求婚された。嫁がねばこの国を滅ぼすと……誰か、姫の……この国と、姫と言う宝を救おうと思う者はいないか?」


ざわざわと、一気に辺りがざわついた。

皆、面食らっていたが、じつはシュリとイシスも驚いていた。


『彼女を助ける。そう約束したはずだが? 気が変わったのか、俺独りでは心もとないか……?』


シュリは、態度を崩さず腕を組んだまま、じっとエステルを見た。

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