青碧の魔術師(黄昏の神々)
「と、まあ彼がそう言っているが、貴殿は試される気は有るか?」

「青碧の魔術師!? まさかそんな四方山話、王子は本気にされているのですか!?」


エステルの言葉に、男は疑いの眼差しでシュリを見た。

若い姿から、400年近くを生きている人物とは思えない。

そんなペテン師の様な目で見られ、胡散散臭そうに言われる事に、不本意ながら慣れてしまっているシュリだ。

だからと言って、自分が確かに『青碧の魔術師』だと説いて回る気にもならない。

誤解を解く事も、説明する事も、面倒がってしないシュリだ。

総てにおいてこんな性格だから、色々と疑われる事甚だしい。

本人がどうでもいいと言う態度なので、おのずと人物像まで眉唾ものにされてしまった。


「信じようが信じまいが、それは本人の勝手。問題はそこには無い。トレントを倒すにはそれ相応の腕がいる。かつての俺が、奴とやり合って封じるに留まった。だが今回は退治だ、その意味、解るな?」


冷静で淡々とした口調。

周囲の明かりを拾い、冷たい色を、反射させる青碧の瞳。

暗に、遊びではないのだと、命にかかわるのだと、訴えかけている。

それが男に伝わるのか。

だが、シュリの意気込みが伝わった者達がいた。


「エステル王子様、リスノー伯、恐れながら、進言致したく存じ上げます」


うやうやしく頭を垂れ、膝を着く3人の騎士。

言葉を発したのは、この国で唯一、シュリと手合わせをした者達の一人。

リーダー格のレイノルズと言う男だった。


「良かろう……申してみよ」


エステルが何を言うのかと、面白そうに唇の端を吊り上げる。


「魔術師殿の手を煩わせるには及びませぬ。手合わせは、我等3人で十分かと……。シュリ様がおっしゃる通り、相手は魔人でございます。リスノー伯の御命にも係わります故……」

「ふむ……」


エステルは、難しそうな顔をして見せると、リスノー伯を見て言った。


「どうする? 伯爵。この3人、国1番の手練れだよ。彼等を倒し、魔術師殿から一本取るのが試験らしいが……?」


「やるかい?」と、今一度問い掛けるエステルに、リスノー伯は、


「もちろん」


と、力強く頷いた。
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